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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)887号 判決

上告人

森田全紀

外三名

右四名訴訟代理人

中嶋輝夫

被上告人

奈良県

右代表者知事

奥田良三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中嶋輝夫の上告理由について。

原審の確定したところによると、本件事故現場は桜井市大字三輪九一六番地の県道天理・桜井線初瀬橋北詰附近であり、アスファルト舗装がされて直線、平担であるところ、初瀬北詰の道路の中心線より西側、すなわち北進道路を掘穿工事中で、右工事箇所を表示する標識として、工事現場の南、北各約二メートルの地点に工事標識板及び高さ約八〇センチメートル、幅約二メートルの黒黄まだらのバリケードが一つずつ設置され、右バリケード間の道路中心線附近に高さ約一メートルの赤色灯標柱が一つずつ設置されていたが、昭和四一年九月六日午後一〇時三〇分頃本件事故が発生する直前に、同所を北進した他車によつて前記工事現場の南側に設置されていた工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱はその場に倒され、赤色灯が消えていたというのであり、右事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。

右の事実関係に照らすと、本件事故発生当時、被上告人において設置した工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたのであるから、道路の安全性に欠如があつたといわざるをえないが、それは夜間、しかも事故発生の直前に先行した他車によつて惹起されたものであり、時間的に被上告人において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であつたというべく、このような状況のもとにおいては、被上告人の道路管理に瑕疵がなかつたと認めるのが相当である。したがつて、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はなく論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解せず若しくは独自の見解に基づきこれを論難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

上告代理人中嶋輝夫の上告理由

一、原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

(法律解釈の誤り)

原判決は理由中において(四枚目裏一行目以下)、本件事故現場の「……工事標識板、バリケード、赤色灯標柱が倒されたため、通常人でさえ工事現場であることを識別しにくい状態であつたこと」が本件事故発生の一原因をなしていることを認定しながら、右工事標識類が(五枚目表一行以下)「第三者によつて倒されたものであること、及びそれが本件事故の直前であることの理由を以て道路の管理の瑕疵に該らない旨」述べている。

これは国家賠償法二条一項の「営造物の設置又は管理の瑕疵」の解釈を誤るものである。即ち、営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうもので、それは客観的に判断さるべきものであり、その過失の存在を必要としないものである(最高裁昭和四五年八月二〇日第一小法廷判決)。〈以下省略〉

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